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【読書メモ】ユーザビリティエンジニアリング(第2版)

前回前々回 に続いてUXの知識をつけるべく ユーザビリティエンジニアリング(第2版) ―ユーザエクスペリエンスのための調査、設計、評価手法― を読みました。

目次

  • Chapter1 ユーザ中心設計概論
  • Chapter2 インタビュー法
  • Chapter3 インタビューの実践
  • Chapter4 データ分析法
  • Chapter5 発想法
  • Chapter6 プロトタイプ
  • Chapter7 ユーザビリティ評価法
  • Chapter8 ユーザテスト
  • Chapter9 ユーザテストの準備
  • Chapter10 ユーザテストの実施
  • Chapter11 分析と再設計
  • Chapter12 ユーザ中心設計活動

概要・ポイント

  • イントロダクション(1章)
  • 調査(2章〜4章)
  • 設計(5章〜6章)
  • 評価(7章〜11章)
  • エンディング(12章)

の大区分の中で、優れたUXを実現するためのユーザ中心設計(人間中心設計)プロセスや手法について解説されています。
Webやスマホアプリのような限られた端末に限らず、組込みシステム等でも活用できるような内容になっています。

ポイント

ユーザビリティとは

前提として、「ユーザビリティ = 使いやすさ」ではない。
「ユーザビリティに問題がある = 使えない」という意味でもある。

国際規格ISO9241では、ユーザビリティを「特定のコンテキストに置いて、特定のユーザによって、ある製品が、特定の目標を達成するために用いられる際の、効果、効率、ユーザの満足度合い」と定義しています。

  • 効果は、ユーザが目標を達成できる
  • 効率は、なるべき最短経路で目標を達成できる
  • 満足度とは、ユーザに不愉快な思いをさせない

これら3つをあらゆるコンテキスト(前後関係や状況)において阻害しないことが重要。

ユーザーエクスペリエンス

仮にユーザビリティが満点であっても、その製品への評価は中程度にとどまる

  • ユーザの「非常に満足」という評価を得るためには、ユーザビリティを超えたレベルを目指さなければならない
  • 代表例として「スターバックス」「東京ディズニーランド」「iPhone」
  • ユーザーエクスペリエンスの要素 表層/骨格/構造/要件/戦略(ギャレットのユーザーエクスペリエンスの要素
  • 製品の開発が終わってから "上" にかぶせるものではない

ユーザ中心設計

優れたUXを実現するために、ユーザ中心設計(UCD: User Centered Design)、もしくは人間中心設計(HCD: Human Centered Design)を用いて、技術優先の考えや勝手な思い込みを排除して、常にユーザの視点に立った製品開発が行える。

骨格となるプロセスを反復することによってUXの完成度を上げていく。(評価と改善を繰り返すのが重要)

  1. 調査:ユーザの利用状況を把握する。
  2. 分析:利用状況からユーザニーズを把握する。
  3. 設計:ユーザニーズを満たすような解決案を作る。
  4. 評価:解決案を評価する。
  5. 改善:評価結果をフィードバックして、解決案を改善する。
  6. 反復:評価と改善を繰り返す。

ユーザの声

「ユーザの声に応えればユーザは満足する」という前提は間違いで、鵜呑みにせず暗黙的な要求まで満たす必要性がある。例:医者
アンケート、グループインタビュー(グルイン)のメリット、デメリット

コンテクスチュアル・インクワイアリー

インタビューアを弟子、ユーザを師匠と見立てて、師匠の体験を弟子に "継承" します。

コンテクスチュアル・インクワイアリーという手法。

  • 心得 教えを乞う → 根掘り葉掘り → 確認する → フォーカス移動 の手順を繰り返す
  • 師匠は気難しい / 話を要約する / 例外には触れない
  • 良い弟子と悪い弟子 / 用意する質問は1つだけで、2つ目以降は質問を1つ目の会話から見つける
  • リクルートやインタビュー準備

質的データ分析

インタビューや観察で得られる情報は「質的データ」
加減乗除のような演算をしない、編集(切り貼り)できる、KJ法での分析が可能。

ペルソナ

決して "架空" のユーザではない

事実に基づいたフィクションを目指す
プライマリーペルソナ、セカンダリーペルソナを設けプライマリーペルソナの要求を完全に満たすことを目的にプロジェクトを進める。

ブレインストーミング

  1. 批判厳禁
  2. 自由奔放
  3. 量より質
  4. 便乗歓迎
  5. 視覚化
  6. 脱線禁止
  7. 1度に1人

・Yes And 話法

何を言われても、まず「イエス」と肯定した後に、そこに「それに加えて」「では次に」と自分の意見を追加しながら会話を進めます。

KJ法、ポジショニングマップ、ドット投票などで結論の収束を行なう。

キャンバス

ビジネスモデルキャンバス、それを元に新サービスなどゼロから発想するためのリーンキャンバスがある。
顧客・課題・ソリューションが解決しても、コスト・収益が成り立たないなどなりがち。説得力のある内容でキャンバスを埋めることが大事。

プロトタイプ

制作者が作るために作ったものではなく、ユーザに使ってもらうために作るため「試作品」というよりも「試用品」。
ローファイとハイファイ。Tプロトタイプ、オズの魔法使い。

プロトタイプとは、全体を大雑把に作ることではなく、必要最小限に絞って作ること。

ペーパープロトタイプ、パワポの使用も場面により有益。
階層構造の設計にはカードソートが有効で、クローズド(見出しあり)、オープン(見出しなし)がある。

評価

評価は目的に依って『統括的評価』と『形成的評価』に大別できます。

統括的評価とは、学習成果の総合的な度合いを "測定" することを目的とした評価です。
形成的評価とは、小さい学習ごとに、どれくらい理解できているか、理解するためには何をしなければならないかをフィードバックするための評価です。

具体例としてTOEICは典型的な統括的評価。英会話に通って発音矯正したり、文章添削するような継続性のあるものは形成的評価。

ユーザビリティ評価も2つに区分できる。
統括的評価の代表は「パフォーマンス測定」(タスク達成率、達成時間など)
形成的評価は『思考発話法』を使ったテスト。

原則として、統括的評価は設計プロセスの "前後" で用い、形成的評価は設計プロセスの "途中で繰り返し" 用います。
もう一つ、忘れてはいけない重大な原則があります。それは、「統括的評価しか行わないのならば、それは全く無駄な投資である」ということです。

ヒューリスティック評価

ユーザビリティ評価のための分析的手法の総称を『ユーザビリティ・インスペクション』といいます。

これは評価者自らの知識や経験に基づいて行なう評価だが、客観性を持たすたせるために様々なガイドラインが考案されてきた。

そのなかでヤコブ・ニールセンがユーザビリティ問題を分析して、原則を抽出したガイドラインを『10 ヒューリスティックス(10 heuristics)』という。ヒューリスティックスとは『経験則』という意味。

『ヒューリスティック評価』とは、この10ヒューリスティックスを根拠として、評価対象の製品が犯している "ルール違反" を探索するという手法です。

参考: Jacob Nielsen の「ユーザビリティに関する10のヒューリスティクス (問題解決に役立つ知見) / Ten Usability Heuristics」 — Website Usability Info

実施手順として、評価者は

  • 複数の評価者で行なうこと(3人以上)
  • 適任はユーザビリティエンジニアやユーザーインターフェースデザイナ
  • インターフェース設計者本人は除外

とし、合議制ではなく単独で評価、発見した問題点をどんどんリストアップしていく。その後評価者ミーティングでディスカッション、レポートに取りまとめる、という流れ。
ただ検出過多やコストの問題などがあり、ヒューリスティック評価は意外と贅沢な方法である。

認知的ウォークスルー

「人間の認知モデル」に基づいて評価を行う手法。
ユーザの技能や経験/タスク/操作手順/画面を定義し、そのなかで4つの質問(目標設定/探査/選択/評価)の探査学習ステップの内容を分析していく。

認知的ウォークスルーではユーザインタフェース上の問題点を詳細に検討するだけでなく、ユーザのとりうる行動を推測することで新たな要求開発にもつながります。

設計の初期段階で用いると有効な手法で、設計者自らがデザインを客観的に再検討するために用いることも可能。

ユーザテスト

ユーザが参加した評価手法の総称で、

  1. ユーザにタスク(作業)を実行するように依頼する。
  2. ユーザがタスクを実行する過程を観察、記録する。

がユーザテストの基本。そのなかで、

  • 思考発話法と回顧法(形成的評価/質の評価)
  • パフォーマンス測定(総括的評価/量の評価)

など代表的なテスト手法がある。

・思考発話法
考えていることを話しながら操作してもらう。

・回顧法
操作が終わってから質問に答えてもらう。
ただ複雑な状況は回顧が難しいなどの短所もある。

・パフォーマンス測定
数値データ(タスク達成率や達成時間)が必要な場合、量的なデータ収集を目的とした代表的手法が「パフォーマンス測定」
ユーザビリティ3要素(効果・効率・満足度)に関係した量的データを計測する。
効果 → タスク達成率
効率 → タスク達成時間
満足度 → 主観的評価

主観的評価はフレームワーク(質問セット)を使うのが一般的。日本語版はWUSがメジャー
https://u-site.jp/usability/evaluation/web-usability-scale/

原則としてプロジェクトの前後で実施して、目標値を設定したり、目標の達成度や改善度合いを把握したりすることが目的です。
短期間にテストと改善を繰り返しながら、徐々に製品の完成度を上げていく反復デザインに適した手法ではありません。

ユーザテストは「反証」を目的としている。
そもそも問題点を見つけようとしているテストなので、予め問題が発生している製品などは対象にできない。(事前にヒューリスティック評価を行なうなどが必要)
被験者としては5名x3回のテストをするのが理想。(15人x1回よりも小規模なテストを繰り返し実施したほうが利用品質が向上する)

その他ユーザテストの準備としてスケジュールの勘所 / リクルートやリソースに関して / スクリーナ(該当者選別のための判定質問) / テスト設計についてなど。

ユーザ中心設計活動

・原始期
・黎明期
・揺籃期(前期/後期)
・躍動期
・拡充期
・完熟期

成熟度モデルとして6段階あり、例えば原始期は

ユーザエクスペリエンスは開発者やデザイナの個人的技量に委ねられている。標準的なUX/UIガイドラインなどは参照しているが、実際のユーザと対話する活動は行っていない。
UX/UCDの専門家はプロジェクトに参加していない。

という筆者が考えるモデルがある。
飛び級は無理なので、まずユーザテストからやってみるのが良い。ただ黎明期レベルでも成果は上がりづらい。

やりやすいのは、「既存製品の改善プロジェクト」。
リリース直前ではなく、改善プロジェクト開始前のテストからはじめる。プロトタイプを作って事前に有効性を検証できる。

調査と評価

ウェブサイトのユーザビリティ調査でも様々な手法を考える必要がある。

・既存のウェブサイトの問題点の把握とその改善策
→ ユーザテスト

・リニューアルに向けたユーザニーズの把握
→ インタビューなどの質的調査

・競合サイトの比較
→ パフォーマンス測定などの量的なアプローチ

またそれらは同時に行なうものではなく、設計プロセスのステップに応じて行なう必要がある。

①ユーザを "調査" して真のニーズを把握
②そのニーズを満たすような製品を設計
③その製品を "評価" して改善する

良かった点

  • 前回読んだ虎の巻よりも各手順や手法が網羅されている感と内容が詳細なので、深い知識がつく(気がした)。
  • 参考文献とかも王道(っぽい)ものを参照しているのでなんだか内容に信頼感があるように感じた。
  • UXの向上を目的とした色々な手法が解説されているが、単にビジネス上でも役立つようなコミュニケーション術、アイデア出し手法などを知ることができた。

惜しかった点

  • 目次を見れば分かるには分かりますが、本の最初に 調査〜設計〜評価 のおおまかな流れと概要について触れたほうが頭に入っていきやすい気がします。

そこの知識ある前提で書かれている本ではあるかもしれないのですが。

まとめ

最後の「調査」と「評価」の使い分けにも書いてあったのですが、これまで読んだ本は触りの触りで、この本は深いところまで解説してあるなあという感想です。
1つ1つの手法についてもそうですが、組織の成熟度モデルについても実態に合っているような気がするので参考になりました。